Q 当社は,七会連合協定 工事請負契約約款(令和2年4月改正)により工事請負契約を締結しています。現在,1年間に20%ほど資材価格が高騰しているようですが,これは,約款の「経済事情の激変」に該当しないでしょうか。
A 以下のとおりとなります。
第1 結論
20%の資材価格高騰でも「経済事情の激変」に該当しない可能性が相当程度高いです。
第2 理由/補足説明
1 解釈の対象となる文言
「予期することのできない」,「経済事情の激変」によって「請負代金額が明らかに適当でないと認められるとき」との要件に該当する場合,請負代金の変更が可能となります。
2 事情変更の法理
民間連合約款第29条(1)eは,事情変更の法理が基礎となっていると考えられます。事情変更の法理とは,重大な事情の変化が生じ,契約時の合意内容を維持することが,取引慣行上の信義則に反し,契約当事者にとってあまりにも酷である場合,例外的に契約内容の変更を認めるものです。
この事情変更の法理に関して,工事請負契約に関する事案ではありませんが,売買予約契約につき,国の政策(国鉄・新幹線用地への指定)の影響で契約目的物の時価が6倍に高騰した事例(最判昭和56年6月16日),中途解約禁止のゴルフ会員契約につき,ゴルフ場の法面が崩壊して営業自体が困難になった事例(最判平成9年7月1日),住宅の売買契約につき,空襲によって売主の引越し先の家屋が焼失した事例(最判昭和29年1月28日)において,事情変更の法理の適用が否定されています(全て契約解除が問題となった事案です。)。
上記の裁判例を前提にすれば,裁判所においては,事情変更の法理について,相当,厳しい判断を行っていることは,明らかであり,20%の資材高騰であっても,「予期することのできない」,「経済事情の激変」にはあたらないと判断される可能性が相当程度高いです。
3 民間連合約款解説
民間(七会)連合協定工事請負契約約款の解説(大成出版社 第6版 2020年11月10日 以下「民間連合約款解説」という。)には,同条項の解釈に関して,次の記載があります。
「どれだけの期間でどれだけの物価上昇があれば「明らかに不適当である」と認められるかの基準は必ずしも明確ではない。契約時において全く予想することのできなかった物価等の急激な上昇があったり,また,約定の請負代金額とその支払条件のもとでは,材料の入手や労務手配の段取りに誤りがなくとも,最小限の利益を確保することができないことなどの場合,最小限の利益率を確保しうる額を限度として増額が認められる可能性がある。」(同180頁)
当該記載は,あくまで,「可能性がある」との表現であるものの,少なくとも,「最小限の利益を確保できない」場合には,請負代金増額の可能性があることを指摘しています。
「最小限の利益」の解釈について,明確な基準はないため,一般的な利益率を参考にするほかありません。例えば,国土交通省不動産・建設経済局令和3年10月15日「最近の建設業を巡る状況について【報告】」[1]において,大企業(資本金10億円以上)における売上高営業利益率[2]は,平成30~令和2年の3年間では,概ね6%台で推移しています(同3頁)。そのため,この売上高営業利益率を参考にして,当該数値よりも,大幅に,利益率が下回る場合には,「最小限の利益」を確保することができない場合に該当し得ると考えられます。