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法律相談Q&A

解体工事の「常用人工契約」の問題

Q 当社は,解体工事に関して,下請業者へいわゆる「常用人工契約」として,工事を発注しています。

【ⅰ】当社の発注が偽装請負として,違法となるのは,どのような場合ですか。

【ⅱ】偽装請負と評価された場合,当社には,どのような法的リスクがありますか。

【ⅲ】偽装請負と評価されないためにどのような対策が必要ですか。

A 以下のとおりとなります。

第1 偽装請負該当性【ⅰ】

1 はじめに

 労働者派遣については,労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「派遣法」といいます。)が規定を置いており,各種の規制があります。そのため,それを免れるために,実態は労働者派遣であるのに,形式上,請負を装ういわゆる偽装請負の問題が発生します。

 派遣と請負はその実態によって区別されるので,契約の名称が「請負契約」であっても,実態が派遣であれば,派遣法が適用されます。そこで,以下では両者の区別基準について整理を行います。

2 派遣と請負の区別[1]

(1) 総論

 派遣と請負とは,①指示管理権の所在,②業務の独立性の有無により区別されます。すなわち,①自己の労働者に対し,自ら指示管理を行うとともに,②当該業務を自己の業務として相手方から独立して処理する場合には,派遣ではなくて請負であるとされます。

(2) ①指示管理権の所在

 まず,①について,請負に該当するためには,下請業者の労働形態につき,以下のいずれの要件にも該当することが求められます。

ⅰ)業務遂行に関する指示管理を自ら行うこと

ⅱ)労働時間等に関する指示管理を自ら行うこと

ⅲ)企業秩序維持・確保のための指示管理,労働者の配置等の決定および変更を,自ら行うこと

(3)②業務の独立性

次に,②についても,以下のいずれにも該当することが求められます。

ⅰ)業務の処理に要する資金について,すべて自らの責任の下に調達し,かつ,支弁すること

ⅱ)業務の処理について,法律上規定された事業主としてのすべての責任を負うこと

ⅲ)単に肉体的な労働力を提供するものでないこと

3 小括

 以上のとおり,①,②の要件を満たさない場合には,偽装請負と評価されます。

第2 偽装請負に該当した場合のリスク【ⅱ】

1 はじめに

 仮に,本件が,偽装請負であると評価された場合の貴社の法的リスクを整理します。

2 派遣法[2]

(1)罰則

 派遣法では,「建設業務」の派遣は,禁じられています(派遣法4条1項2号)。そのため,本件が偽装請負である(派遣を行っている。)と評価される場合には,下請業者は,本来,派遣法で禁止されている建設業務の派遣を行ったことになり,その違反については,「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」との罰則が適用されます(同法59条1号)。

 一方で,上記の罰則は,派遣先(貴社)には,直接適用されません。

もっとも,例えば,貴社と下請業者が共謀して,偽装請負を行っていたと評価される場合には,貴社も,共同正犯として,上記罰則の適用を受ける可能性はあります。

(2)是正勧告・公表

 偽装請負と評価された場合には,行政庁から,当該違法行為を是正するために必要な措置をとるべきこと等を勧告され[3],それに従わない場合には,企業名等を公表されることがあります[4]

3 小括

 以上のとおり,偽装請負と評価される場合には,場面は限定されるが,最大リスクとして,罰則が適用されるというリスクがあります。

第3 偽装請負と評価されないための対策【ⅲ】

1 はじめに

 偽装請負と評価されないためには,上記「第1」の①,②の要件を充足することが必要となります。以下では,その点に関し,特に重要となるポイントを整理します[5]

2 管理責任者の設置(①-ⅰ)

 上記のとおり,請負と評価されるためには,「①ⅰ業務遂行に関する指示管理(例:仕事の割り付け,順序,緩急調整,技術指導,出来高査定)を下請業者自ら行うこと」が要件となります。

 そのため,これらの指示管理を行う者として,下請業者が,管理責任者を設置し,その者が上記の業務遂行に関する指示管理を行えば,当該要件を充足できます。なお,この管理責任者は,通常は作業を行っている労働者に兼任させることができます[6]

 したがって,貴社と下請業者との契約において,「下請業者にて管理責任者を設置しなければならない。」との条項を定め,管理責任者を設置することが考えられます。

3 労働時間等の管理(①-ⅱ)

 上記のとおり,請負と評価されるためには,「①ⅱ労働時間等(例:始業・終業時刻,休憩時間,休日,休暇,時間外労働,休日労働)について,下請業者が管理指示すること」が要件となるため,この点についての運用の整理が必要です。

4 契約形態(②-ⅲ)

 上記のとおり,請負と評価されるためには,「②ⅲ単に肉体的な労働力を提供するものでないこと」が要件となります。

 この要件との関係で,質疑応答集質問8では,「業務処理のために費やす労働力(労働者の人数)で受発注を行い,投入した労働力の単価を基に請負料金を精算している場合は,発注者に対して単に肉体的な労働力の提供が行われているにすぎない」ため,偽装請負と判断されるとの記載があります。そのため,貴社と下請との契約形態について,常用人工契約であることは,偽装請負を肯定する事情となります。

 したがって,貴社と下請業者の契約について,❶下請業者見積に基づいて,確定金額で契約を締結し,❷実際の工事費用が,その見積りを上回った場合には,「追加工事」との処理で清算を行う,といった契約形態に変更することが考えられます。

5 機械・器材の準備・調達(②-ⅲ)

 「単に肉体的な労働力を提供するものでない」との要件に関し,より具体的に,「自己(下請業者)の責任と負担で準備し,調達する機械若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く)又は材料若しくは資材により業務を処理する」ことが要求されます[7]

 そのため,例えば,解体工事に必要なドリル等の機械,器材について貴社が全て用意し,それを下請業者が無償で使用するとの実体があると偽装請負と評価される可能性が高いです[8]

 したがって,解体工事に直接必要な機械,器材については,貴社が有償で,下請業者に支給するとの契約形式として整理することが考えられます。

6 小括

 偽装請負と評価されることを防ぐため,上記の対策等を行う必要があります。なお,契約書等形式面の整備も重要であるが,真に問題とされるのは,業務遂行の実体です。

以上


[1] 松岡政博「パート・派遣・外国人労働者Q&A」87頁以下

[2] 職業安定法44条は,「何人も,次条に規定する場合を除くほか,労働者供給事業を行い,又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。」とし,それに違反した者は,「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」に処すると定めていませ(同法64条9号)。職業安定法は,派遣法とは異なり,「派遣先」も罰則の直接適用の対象としているため,貴社も直接の処罰対象となります。

 もっとも,行政庁は,偽装請負の問題については,職業安定法の問題ではなく,派遣法の問題として処理する傾向が強いです。

[3] 貴社と元請業者との請負契約の条項において,「行政庁から行政処分を受けた場合には,元請業者は,契約を解除できる。」との条項が含まれている場合には,貴社が是正勧告を受けたことを理由として,元請業者が契約解除を行うといったリスクも想定されます。

[4] 厚生労働省「派遣元事業主又は派遣先が法律違反を行った場合」2(2)参照

[5] 偽装請負と評価されるかは,具体的事情に基づく総合判断であるため,以下の点さえ満たせば,偽装請負の問題をクリアできるわけではありません。

[6] 「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)に関する質疑応答集(以下「質疑応答集」といいます。)」 質問4

[7]厚生労働省・都道府県労働局発行「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」6頁(3)

[8] 質疑応答集 質問13参照

執筆者 弁護士:谷亮平
弁護士登録後、建築・設計・土木・不動産分野を専門的に取り扱う法律事務所に入所。クライアント企業である鉄道会社、ゼネコン、ハウスメーカー、工務店、設計事務所からの法律相談、紛争事件を多数手がける。昨今は、企業関連法務、マンション管理、システム開発の分野にも注力している。